日本の宇宙開発の未来

1990年代、東京大学大学院の研究室で、中須賀教授と山﨑飛行士は共に宇宙を夢見ていた。新たなフロンティアに踏み出した人類について。また、そこでの工学や技術の醍醐味とは。日本と世界の宇宙開発の現場を伺った。

■何歳になっても、宇宙へ行ける時代に。
中須賀 ── 僕らの世代だと、宇宙に憧れたきっかけは大体アポロなんです。1969年7月20日、アポロ11号が月に着陸した瞬間は覚えています。僕は8歳でした。その日の夜、親父が衛星中継の荒れた画面でテレビを見ていてね。白黒の画面を見ながら鳥肌が立ったよね……「イーグル・ハズ・ランデッド」って、あのシーンは、本当に鳥肌が立って。それ以上に印象に残っているのは、着陸の場面ではないんです。月着陸した後、地球に帰ってくるまで、僕は怖くて眠れなかったんです。

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月から帰って来る時、地球の大気に入る角度が非常に大事で、正確には覚えていないけど5.7度から7.2度あたりのほんの1.5度ぐらいしかセーフティゾーンがない。深いと突入時に加速が付きすぎるし、浅いと逆に跳ね飛ばされてしまう。38万km離れて月から帰ってくるのに、安全な角度が1.5度しかない。それがもう、怖くて怖くてね。

山崎 ── 8歳の原体験ですね。

中須賀 ── 僕にとっては、工学に触れた最初です。工学、つまりエンジニアリングって「1.5度の間に入れる」という世界なんだと。文系の親父が聞きかじりで一生懸命に教えてくれました。今思うと本人も怖かったのかな。

加速度で死んでしまうってどんな感覚なんだろう。あるいは跳ね飛ばされて帰って来れない人ってどうなってしまうんだろう。だから、私にとっての宇宙というのは、怖い存在でした。極めて危なくて、危険が多い世界という印象が強くて、そこからスタートしたんですね。それでも、宇宙には憧れました。

──教え子が宇宙に行ったのは、正直なところ、うらやましかったですか?
中須賀 ── それはうらやましいですよ。うらやましいし、誇りですよね。彼女は昔から行きたいと言っていて、8割ぐらい選ばれるだろうとは思っていたけど。最後の2割は、まさかと思いました。本当に行っちゃったからね。でも、今は宇宙飛行士に年齢制限がないんですよ。

山崎 ── 組織の中の定年はありますが、宇宙に行くこと自体に年齢制限はありません。今のところの最高齢記録は77歳で飛行したジョン・グレンさんです。

中須賀 ── それで何の問題もなかったので、まだチャンスはあるかなと思っています。1回、応募したいと思っているんですけどね。まぁ、一度は行ってみたいよね。

山崎 ── (取材陣に対して)皆さんは、いかがですか?

──それは行きたいですけど、やはり選ばれた特殊な人が行けるイメージがあって……。

山崎 ── まだそうですよね。でも、それを変えたいなっていうのが、私の今の夢なんです。

──現在、一般人が行くための条件はどんなものですか?

山崎 ── 来年、アメリカで始まろうとしている宇宙旅行プログラムだと3日間の事前訓練でいいんです。飛行機に乗って無重力を体験したり、万が一の宇宙船からの非常脱出手段など簡単な知識を習ったり、締めて3日でいいということなんです。

医学条件としては、今は日本の宇宙飛行士に関しても、かなり緩くはなっているんですね。目は矯正視力で1.0、屈折率の検査は多少あるにしても、ほとんど条件はないです。レーシック手術も認められていますし。

今は歯科技術も進歩しているので、虫歯も治療してあれば大丈夫。万が一痛んだらペンチを使って自分で抜かなきゃいけないんですが。一応、私たちは抜歯の訓練をしてから行きました。

中須賀 ── いやはやスゴいね。

山崎 ── 運用でカバーということですね(笑)。あとは血圧。こればかりは飛行機や遊園地のアトラクションと一緒で、心臓に不安がある方はご遠慮くださいとなってしまいます。それ以外は、ほとんど大丈夫なんです。

──宇宙へ行くと、人生観のようなものは変わりますか。

山崎 ── 宇宙に行って戻ってきたらコロッと人生観が変わったというほど単純なものではないのですが、やっぱり印象が強烈には残ります。それは確かです。

──『宇宙からの帰還』に登場した宇宙飛行士たちのように?
山崎 ── アポロ計画で特に月まで行った人、つまり、地球が本当にぽっかりと、親指ぐらいの大きさで見える体験をした人は、また違うんだろうなと思いますね。

私が行った宇宙というのは400kmの高さなので、まだ地球の表面を這った状態ですね。8分30秒でスペースシャトルは宇宙まで到達するんですが、どんな風に地球が見えるんだろうって、ドキドキしていました。

てっきり飛行機の延長で、どれぐらい眼下に見えるかな思っていたら、窓から初めて見た地球は、真上に青く輝いていたんです。あれはすごく強烈でした。

宇宙船の姿勢の取り方によって、昼も夜も、窓から見える地球の方向が変わるんですけど、ああ、真上に、頭の上にある、というのがとても不思議でした。

中須賀 ── 上下感覚もあるんですか?

山崎 ── 2つの軸が感じられるんです。船内の設計で上下はあります。上に明かりがあって、機械の配置も上下を決めて配置されているので、視覚的に上下は分かるんです。

それと別に、自分の中にある軸で上下が決まるんですね。宙ぶらりんの姿勢を取っていたら天井が下だと思うし、壁から頭を突き出した姿勢なら壁が下だと。自分の姿勢によってパッパと上下の軸を切り替えられます。

中須賀 ── 放射線はどうでした? やはり目の中は光りました?

山崎 ── 光りました。高エネルギーの粒子がちょうど目に入ってくると、ピカッと光るんですね。まぶたを閉じていてもピカッと光ります。私は15日間滞在した中で、3回光りましたね。

中須賀 ── シングルイベントですね。半導体に当たって、半導体が故障を起こすイベントのこと、SEEって言うんですが、まさにそれが人間で起こっていると。

山崎 ── パソコンなどが時々フリーズするのも、そういった影響だろうといわれていますね。

つづく

記事提供:テレスコープマガジン

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