うるさら7

製品を見るときに機能性や価格ばかり見てしまいがちだが、その後ろに込められた製作者の思いは深い。家電チャンネルではものづくりをしている人に迫ることで、商品の魅力を知ってもらいたいと思う。第一回目の今回は、省エネ大賞を受賞したことでも話題になったダイキン工業のエアコン「うるさら7」に注目。製作に賭けた熱い思いを聞いた。

今回、私が向かったのは滋賀県にあるダイキン工業の製作所。ここで、エアコン「うるさら7」が生まれたのだ。お会いしたのはうるさら7の製作において統括責任者に任命された小泉淳氏と、新商品のコンセプト起案担当の村井由佳氏。

■海外企業の技術力の高さに恐怖心を感じた
滋賀県にある製作所は広い。到着した時間がちょうど休憩時間だったのか、休憩所で同僚と楽しそうに話す社員の人たちを見ることができた。話している内容は仕事や技術についてばかりだそうで、その楽しそうな姿が印象的だった。
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笑顔で出迎えてくれた小泉氏と村井氏は、さっそくうるさら7開発当時の話を聞かせてくれた。

うるさら7が発売されたのは2012年。開発には3年かかったということだ。他の多くのメーカーと同じように、ダイキンも海外企業との協業に取り組んでいた。

弊社は中国の格力電器とも組んでいますが、彼らの技術力が高いことに驚き、また恐怖心も感じました。いつか日本の技術者が負けてしまうのではないかと思ったほどです。日本のものづくりはまだまだ負けてない、それを証明したいと思い、うるさら7のプロジェクトを立ち上げました」と小泉氏は話す。

うるさら7プロジェクトは当時の技術では誰もが無理だろう、という高い目標を持っていた。実際、完成品を見てみるとそれがわかる。

うるさら7が持つ特徴は大きく分けて7つ。世界初だという「新冷媒HFC32(R32)」の採用、効率の良さを追求したことで実現した業界ナンバー1の「省エネ性」、風を対流させる「気流」、「自然の風」の再現、ダイキン独自の空気清浄技術である「光速ストリーマ」、人気エアコン「うるるとさらら」の特長である「除湿」「加湿」の7つだ。

こういった機能を持つエアコンを作ることが難しいといわれていたのは何故か、小泉氏の話を聞くことで見えてきた。

「エアコンの省エネ指標にAPFというものがあります。これは通年エネルギー消費効率というもので、数字が高いほど性能が高い。うるさら7開発当時のダイキンの実績は6.2でした。各メーカーともに毎年01.~0.2の向上を図るという状態の中、私たちが掲げた目標値は7.0。これはまさに夢の数字でした。夢の数字ではあるのですが、なんとか実現したいという思いしかありませんでした」。

成功できる確信はないまま、動き出した。

「通常、ルームエアコンの開発期間が2年のところを、うるさら7の開発期間として3年をもらいましたが、それでもなお成功すると言う確信が得られないほど高い目標でした」。

この目標を達成し、うるさら7を完成させるために、統括責任者である小泉氏は工場全体を巻き込み開発に取り組んだ。

担当者が割り当てられ、プロジェクトは進行するが、小泉氏は「ほかのチームの業務が回らなくなってしまうのではないかと心配になるような工場のエース級を選んできた」と笑いながら振り返った。

プロジェクト中には合宿を開き、興味を持つ人すべてと徹底的に話し合ったという。120人以上が集まったという合宿の中で、高い目標に向けた意識がまとまっていく。


■それぞれが最高の技術力を発揮
高い目標達成に向け、全員が努力することができたと、小泉氏は話す。

「デザインひとつをとってもわかります。エアコンは薄く、小さなものが主流ですが、うるさら7の強みを活かしたまま、サイズを小さくするのは難しかった。ですが、機能性だけではなくデザインも優れていないといけない。デザイナーと激論を重ねてすすめました。開いた扇をイメージしたものに落ち着きました。作っているときは、自分たちの下にいるのですが、実際にリビングなどに設置されたエアコンは、下から見上げることになります。その点を重視し、見上げた時に一番美しいと考えるデザインになりました」。

小泉氏の話に「消費者のみなさんに、選んでもらえるようなエアコンでないといけない。そのために技術者とは違う悩みをデザイナーは抱えていました。そういう風にそれぞれが妥協せずに努力できたプロジェクトだと思います」と村井氏は続けた。

■完成したうるさら7がものづくりの可能性を広げる
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多くの人を巻き込んだうるさら7は2012年11月1日に発売された。2012年度の省エネ大賞の中でも最も優れたものが選ばれる「経済産業大臣賞」を受賞している。

この受賞は、省エネ技術だけが評価されたわけではない、と話すのは村井氏だ。

「授賞式の場で、経済産業省の方がうるさら7について話された言葉がとてもうれしかったのを覚えています。『これは日本のものづくりが評価された』という言葉に、日本の技術やメーカーの未来に危機感を持ちプロジェクトを進めていたことが評価されたと感じました」。

同じように、小泉氏もプロジェクトを通じてこう感じた。

「今回のプロジェクトは誰もが諦めなかったことで実現したと思っています。このプロジェクトを振り返って、日本はまだまだ戦える! と強く感じました」。

全員が妥協せずに進めたプロジェクトだからこそ、省エネ大賞を取ることに大きな意味があったとも言う。

「実は当社はルームエアコンでは初代のうるるとさらら以降、10年以上省エネ大賞の表彰を逃していました。だからどうしても獲りたいと思っていました。どれだけお客様の心の琴線に触れる物語とドラマが伝えられるか、と考えて省エネ大賞受賞に向け社内でも動いていましたが、結果、日本のものづくりそのものを伝えることが出来たと思っています」と村井氏は満足そうに話した。

■編集長のひとこと
うるさら7は、価格的には高い。それでも売れ続けている。それは、消費者は高くてもいいものであれば買う、という実にシンプルな論理がしっかり証明されていると言えるだろう。空気汚染問題なども、追い風になっているという。製品と市場、双方がマッチした時に生まれるヒット作と言える。奇しくも取材日の当日の午前中、私はソニーの4Kテレビの発表会の席にいた。熾烈な価格競争ではなく、新しい価値4Kで市場の価値を変えようとしている姿勢は、うるさら7と通じるものを感じた。

(編集長 中村祐介)


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