人類は、光をコントロールする術を早くから手に入れていた。レンズを使って屈折させたり、集光させたりするのはその一例だ。これに対して、熱の向きをコントロールするのは難しい。例えば、カイロをポケットに入れた時を考えればわかるが、熱源からの熱はあらゆる方向に発せられている。ところが、マサチューセッツ工科大学のMartin Maldovan博士が提唱している技術を使うと、熱の向きも光のように自在にコントロールすることができるようになるかもしれない。
量子力学では、光は光子(フォトン)という粒子として扱われる。光子は、周波数に応じたエネルギーと運動量を備えている。
一方、音や熱は、空気あるいは物質を構成する原子の振動である。物理学では、こうした振動を仮想の粒子、フォノンとして扱う。光が光子という粒子によって伝わるのと同様、音や熱はフォノンを介して伝わると考えると、さまざまな物理的な課題を解決しやすくなる。
屈折率が異なる材料を周期的に並べたナノ構造体をフォトニック結晶というが、これを使うと光の速度や向き、周波数などを細かくコントロールできる(フォトニック結晶を応用して「透明マント」を作ろうという研究もある)。フォノンに関しても、音についてはすでにフォノニック結晶が作られており、音響デバイスへの応用が探られている。しかし、熱を扱うことはまだできていなかった。
Maldovan博士によれば、熱と音の違いは、周波数の違いにある(音の振動周波数がキロヘルツレベルであるのに対し、熱はテラヘルツレベル)。コンピュータシミュレーションの結果、ゲルマニウムのナノ粒子を含むシリコンの薄膜を使うことで、熱フォノンを音響フォノンと同様に扱える可能性が示された。Maldovan博士は、熱フォノンを扱えるフォノニック結晶をサーモクリスタルと名付けた。
サーモクリスタルによって、特定の方向にだけ、あるいは一方通行に熱を伝えることが可能になる。この性質は、効率の高い熱電素子(温度差を電気に変換する素子)や、特定方向からの熱だけを伝える熱ダイオードなどに応用できるという。将来的には、熱効率の高いビルなどに応用できるのではないかと期待されている。
(文/山路達也)
記事提供:テレスコープマガジン
一方、音や熱は、空気あるいは物質を構成する原子の振動である。物理学では、こうした振動を仮想の粒子、フォノンとして扱う。光が光子という粒子によって伝わるのと同様、音や熱はフォノンを介して伝わると考えると、さまざまな物理的な課題を解決しやすくなる。
屈折率が異なる材料を周期的に並べたナノ構造体をフォトニック結晶というが、これを使うと光の速度や向き、周波数などを細かくコントロールできる(フォトニック結晶を応用して「透明マント」を作ろうという研究もある)。フォノンに関しても、音についてはすでにフォノニック結晶が作られており、音響デバイスへの応用が探られている。しかし、熱を扱うことはまだできていなかった。
Maldovan博士によれば、熱と音の違いは、周波数の違いにある(音の振動周波数がキロヘルツレベルであるのに対し、熱はテラヘルツレベル)。コンピュータシミュレーションの結果、ゲルマニウムのナノ粒子を含むシリコンの薄膜を使うことで、熱フォノンを音響フォノンと同様に扱える可能性が示された。Maldovan博士は、熱フォノンを扱えるフォノニック結晶をサーモクリスタルと名付けた。
サーモクリスタルによって、特定の方向にだけ、あるいは一方通行に熱を伝えることが可能になる。この性質は、効率の高い熱電素子(温度差を電気に変換する素子)や、特定方向からの熱だけを伝える熱ダイオードなどに応用できるという。将来的には、熱効率の高いビルなどに応用できるのではないかと期待されている。
(文/山路達也)
記事提供:テレスコープマガジン