
ライフジャケットのような服が ぎゅっと体を締め付けると、まるで誰かに抱きしめられているような気分になる。これは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のエイドリアン・チェオク(Adrian Cheok)教授が開発した、遠く離れた者同士でハグする「ハギー・パジャマ」という装置だ。チェオク教授は、触覚を始めとする五感を使ってコミュニケーションを行う「タッチ・インターネット」の研究を進めている。ネットで感覚や体験を共有できるようになった時、はたして社会はどう変化するのだろう。
私は、味覚や嗅覚を通じて、感情のコミュニケーションができないかと考えているところです。いい気分になった時には友達にチョコレート味を送ったり、落ち込んだ時には苦い味を送ったりできれば、感情のコミュニケーションになりえます。
味覚と臭覚を共有できれば、東京にいながら、田舎のおばあさんといっしょに料理をすることだってできるでしょう。
別の研究では、電子機器を通じて香りを送る実験を行っています。装置には固体の香料が入っており、装置が作動するとその香料が放出されるのです。初対面の人にいい香りを送ったり、人ごとに特定の香りを割り振っておいて、その人と接触すると 、香りを共有したりすることもできます。

[図表5]香りを使ったコミニュケーションシステムの例。特定の人についての香りと音を携帯電話にセットすると、その内容がメガネに保存される。メガネをかけているユーザーがアイコンタクトを行うと、メガネにセットされた香りと音が流れ、ユーザー同士でそれを共有できる。
──味や香りは複雑な化学物質で構成されていますから、視覚や聴覚ほど簡単には実現できないのではないでしょうか?
確かに視覚や聴覚はデジタル化しやすく、それに対して味覚や嗅覚はとてもアナログです。しかし、味覚に関しては、基本的に5つの味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)で構成されており比較的単純ですから、先に説明した機器で実現できるのではないかと考えています。
一方、嗅覚はとても複雑です。医療分野で使われているTMS(Transcranial Magnetic Stimulation:経頭蓋磁気刺激法)という方法が、このために使えるのではないかと考えているところです。TMSは磁気コイルを使って、脳内のニューロン を興奮させます。
食べ物や飲み物を摂った時に脳内で起こる反応を測定して、その部位を刺激することで、理論的には風味を再現できるわけですが、実現するまでには時間がかかるでしょうね。それが20年後になるか50年後になるかはわかりません。それでも最終的には、脳内にこうした感覚情報を直接流し込めるようになると考えています。
(つづく)
記事提供:テレスコープマガジン
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