2011年6月末現在、東京電力管内の電力供給能力は4,960万kW(6月各週の需給見通しについてより)で、今夏の需給見通しと対策について(第3報)によれば、7月末には5,520万kW、8月末には5,620万kWになります。
2010年夏の最大電力は2010年7月23日の5,999万kWで、これには足りませんが、現在10%程度の節電が実施されており、昨年と同等の猛暑の場合でも、なんとか計画停電なしに乗り切れる模様です。

しかし、問題はその後の電力供給です。現在は休止していた火力発電所の再稼働などで、なんとか供給能力のめどが立っていますが、2012年になると稼働中の原子力発電所が止まり供給能力が低下し、東京電力だけでなく、日本全国で様々な問題が発生する可能性があります。


従来、日本における発電量全体に原子力発電が占める割合は3割程度でした。2011年6月の東京電力管内だけでみると、稼働中の原子力発電所は柏崎刈羽原子力発電所の合計約490万kWだけで、全体に占める割合は1割程度となっています。

■2012年夏には原子力発電所がすべて止まる可能性

原子力発電所の場合、燃料の交換もメンテナンス時にしかできないので、1年程度の稼働後メンテナンスに入ります。メンテナンスには最短で3ヶ月から4ヶ月かかり、燃料の交換や各種検査が行われます。
メンテナンスで以上がなければ再稼働となります。
しかし、原子力発電所に関する安全性に疑問が持たれている今、再稼働のめどが立っていない原子力発電所が増えています。

運転開始から1年程度でメンテナンスに入るので、2010年に稼働した原子炉は2011年末頃には、2011年に稼働した原子炉は2012年に停止し、2012年夏前には現在稼働中のすべての原子力発電所が停止し、電力が供給されなくなる可能性があります。

■燃料コスト上昇でエネルギーコスト増加

足りなくなる電力のため、休止している火力発電所の再稼働など、電力供給量を維持しようとしています。現在増やしている発電能力の大半は火力発電で石炭・ガス・石油などの化石燃料が主体となっています。原子力発電分を火力で補う場合、短期的な燃料コストなどが上昇します。
(財)日本エネルギー経済研究所の原子力発電の再稼働の有無に関する2012年度までの電力需要分析によれば、家庭でその負担は月に1,000円程度になると結論づけています。

月に1,000円の負担なら、それほど大きな負担と考えない方も多くいるでしょうが、このコスト上昇は電力の2/3を使用している産業界でも同じです。先の分析によれば、産業界の電力料金上昇は36%になると結論づけており、各種製品の値上がりなどが予想され、日本産業界にとって国際競争力の低下も予想されます。

■化石燃料の需要増で全世界の全産業界にも影響

原子力発電を止める動きは日本だけではなく、世界中に広がっているので、化石燃料の需要増は全世界に広まり、世界的な価格高騰も考えられます。化石燃料の高騰は電力などエネルギーコスト上昇だけでなく、各種化学製品の高騰にも繋がるなど、電気料金だけでなく、生活する上でのほとんどすべての分野に影響します。
もちろんCO2排出量の増加などもあり、環境問題にも影響することも考えられます。

一時的なコスト増でなんとか乗り切ったとしても、世界的なエネルギー問題は避けて通れません。
もちろん、原子力発電所が再稼働すれば電力供給には余裕が出ますが、万が一の事故などを考えるとそれに同意できないのは当然です。また、廃炉にするまでのコスト、使用済み燃料の処理、事故のリスクを考えると、原子力発電が低コストでクリーンだと思う人はいないでしょう。
今後、化石燃料に依存しない太陽光や風力、地熱、水力など本当にクリーンな発電を増やすにしても、時間とコストがかかります。

節電自体は今後さらに強化すべきですが、原子力に変わるクリーンな発電が短期間で期待できない今、なるべく電力を浪費しないような生活への転換も必要になっていくでしょう。

上倉賢 @kamikura [digi2(デジ通)]

digi2は「デジタル通」の略です。現在のデジタル機器は使いこなしが難しくなっています。
皆さんがデジタル機器の「通」に近づくための情報を、皆さんよりすこし通な執筆陣が提供します。